紫根のポイント
この点は、規模が大きいマンションほど簡単でなくなる。
管理組合の実質的な頭脳に当たる立場の役員は、自分のマンションの全体像を把握していなければ役割が務まらないが、順番制などで問題意識がないまま役員になる人が多いことを考えると、この点の再確認の必要性は、想像以上に大きい。
マンションは、専有部分と共用部分だけで成り立つ。
そんなことは誰でも知っている、と、一応は誰しも考えるだろう。
しかし、それならベランダは専有部分なのか、共用部分なのか。
玄関ドアは、どっちなのか。
ガラス窓は、どうなのか。
マンションの隅々まで専有部分か共用部分かを、誰もが具体的に説明できるだろうか。
そんなことは管理規約を読めばわかると考える人がいるかもしれないが、管理規約の書き方は大まかなものが多い。
書いであっても言葉だけで具体的なことがわからない場合が多いし、なかには書いてないケースもある。
では、法律を読んだらわかるか。
むしろ、ますますわからなくなるだろう。
しかし、こうした具体的な区別が明瞭に把握されていないと、本当の意味での危機管理対策は不可能になる。
物件ごとに違うマンションの建物構造の細部に至るまで、専有部分と共用部分の違いをよく確かめておかないと、もしものときに、問題の起こったスペースが個人で対応すべき部分なのか、管理組合で対応しなければならない部分なのかが判断できなくなる。
そうなると、対応に必要な経費や手数を誰が負担するのかがわからなくなり、事実上誰も手を打たないままになってしまうから、ますます問題が厄介になっていく。
こういう場合、管理規約の定め方が単なる言葉の表示だけにとどまっていると、具体的な判断ができない結果をもたらしやすい。
こうした状態では、条文の読み方をめぐる解釈や考え方をめぐって、管理規約の解釈論争が起こりやすくなる。
急いで手を打たなければならないときに、こうした言葉や解釈だけの解釈論争は、百害あって一利もない。
建物各部の専有・共用の部分判定をすませた統一見解を、前もってとりまとめておくべきことを強調したい。
地震とか台風といっても、実際には起こった問題によって対応の仕方が異なる。
火災なら消防署、盗難なら警察、停電は電力会社、ガス漏れはガス会社といったふうに、事態によって対応する組織が異なる。
また、消防署や警察は地域名称がついているからわかりやすいが、電力・ガス・電話などの会社ではマンションの所在地ごとに組織部門がわかれているから、「○○支店○○部○○課」というレベルまで具体的に確かめておくほうがいい。
できれば、担当者の名前なども確かめておくと、なお好都合だろう。
電話番号やメールアドレス、ファクス番号、それに夜間や休日の対応も確認しておきたい。
危機が起こったときも、さし当たって不安なく生活できるような情報を、ふだんから居住者に知らせておく工夫が望ましい。
電気・ガス・水道・通信などライフライン関係への接触は個人レベルでもできる場合が多いから、できるだけ自力で対応して、管理組合への過度の依存を少なくするようにしておくことも、限られた管理組合のエネルギーの使い方としては大事な点である。
そうした意味で、それぞれのマンションごとに異なる居住者の情報ニーズを確かめて、情報源を明示する工夫をしておきたい。
何かといえば万能のように思われがちな携帯電話や固定電話を使えないようなときは、公衆電話が頼りになるが、その公衆電話も、最近は地域によって姿を消していることがある。
マンションの近くにある利用可能な公衆電話の正確な場所や、災害のときにはコインやカードがなくても無料で公衆電話が利用できることなどを、広報などで早めに知らせておくといい。
率直にいって、管理組合が実行できる危機管理対策にはかなり限界がある。
毎年役員が交代するという実情のなかで、望ましい危機管理対策をいつも役員がきちんと心得ているなどということは考えにくい。
そうなると、管理組合があてにできるのは管理会社しかない。
また、管理会社は事実上管理組合よりもそのマンションのことをよく知っているから、まさかのときの判断も、管理会社のほうが適確だということもある。
そうしたことを考えると、管理組合の危機管理対策で管理会社との連絡協調態勢を確保する意味は、想像以上に大きいといえる。
だから、「まさかのときに、管理会社の連絡窓口はどこの部門の誰なのか」という点の確認がポイントになる。
夜間や休日、年末年始や連休などの場合、どこの誰が管理組合からのSOSに対応してくれるかということである。
前もって、この点を管理会社に確かめておきたい。
こうした管理組合からの要望にどこまで答えてくれるかという点は、管理会社の信頼度判定の指標にもなるだろう。
危機管理対策は居住者同士が声をかけ合うコミュニティ感覚が支えるマンションの危機管理対策はいかなる意味においても組織レベルの課題だが、その点には現実的な前提条件がある。
それは、一人ひとりの居住者の生活感覚である。
管理組合に限らないが、組織の状況はメンバー次第で決まる。
平和な状態の管理組合では、資産所有者団体という視点による法律的な発想だけで、危機管理という問題意識が欠落していることが多いから、単なる不動産所有者としての権利の主張だけが意識されて、生活面での共同歩調の重要性はあまり考えられることがない。
その点が極端になると、近隣の生活者同士なのに、接触を避けて暮らすホテルまがいの生活の仕方になる。
こうした状態の人が多いマンションの管理組合は、危機管理対応能力がまちがいなく弱体化する。
そうならないような日常的な段階での準備こそが、じつは管理組合の危機管理対策を有効化する。
消火器の使い方や非常の際の救急法を心得ていても、隣り合って住んでいる人の名前も顔もわからないし声をかけたこともない状態では、そういう技法の習得がほとんど役に立たない。
この点で意味をもつものが、朝晩の挨拶などの声のかけ合いである。
「お早う」とか「今晩は」といった声のかけ合いは、じつは、同じ生活共同体の同一メンバーであることの相互確認メッセージ発信の意味をもっているのであって、単なる心がけではない。
同じ場所で生活条件を共有している人同士の、相互認識サイン発信の役目を果たしていると考えるなら、こうした日常次元での行為の積み重ねが組織体の活動の意味を左右する。
危機管理対策は、じつはそういう条件の裏づけに支えられてこそ意味のあるものとなる。
だから、そうしたことを管理組合がふだんから広報などで呼びかける習慣をつくっておく必要が大きい。
もしそう考えた場合、それを誰が、どういう方法で進めるのかという点が論点になるだろう。
この点を考えれば、管理組合には危機管理対応組織をつくる必要が大きいということになる。
危機管理対策委員会でもいいし、安全管理部会でもいいし、セキュリティ対策チームでもいい。
実質的な意味で危機管理対策に取り組む組織部門を管理組合の役員会付属機関として設けることが、現実的なひとつの対応策となる。
この一文で書いてきたようなことを、理事会などで取り組んでももちろんかまわないが、専任組織をつくる方法がもっと検討されてもいい。
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